発達障害とは

元気な子どものイメージ写真

精神・運動発達に偏りや遅れ、様々な気になる行動特性がみられると発達障害が疑われます。発達障害は、生まれながらの何らかの脳機能障害から生じるとされていますが、明らかな原因はわかっていません。但し、保護者の育て方や環境だけから発症するものではありません。具体的には、自閉スペクトラム症(自閉症、アスペルガー障害)、注意欠如・多動症、限局性学習症などが含まれます。生来の特性なので、それらの症状は、通常低年齢から現れます。しかし、こどもの発達課題は外見からではわからないことも多いです。また、全体の発達に遅れがなく、症状の程度が軽い場合などでは、本人も周りの人も気づくのが遅くなることがあります。
発達障害の各疾患の診断は、医学的診断基準に基づき、医師が判断します。特徴的な症状がいくつか存在し、それが発達年齢に不相応か、社会生活上の困り感が強いのかという観点から総合的に診断します。医学的な血液や画像の検査で診断はつきません。症状は発達の個人差と区別するのは難しく、家族の困り感は人それぞれなので、診断の有無がいつでも必ずはっきりするわけではありません。子どもは発達途上にあり、また、だれにでも、得意なことも苦手なこともあります。発達に凸凹があっても、診断基準レベルとはいえない即ち“疑い”“グレイゾーン”“経過観察”と判断されることもあります。発達障害のある子には、同じ診断名でも、一人ひとり個人差があり、成長によっても行動が変化していきます。

大切なことは生活での困りごとや、問題行動がある場合に、その子にあった適切な時期の療育、環境調整、必要に応じて薬物療法での管理を行うことです。そうすることが発達を促し、本人のつらさや生活の困難を軽減することにつながります。

また、家族や信頼できる大人から愛情を注がれることは(愛着形成)、大きくなってから自信と勇気をもち、たとえ失敗しても立ち上がり、自分の目標に向かって頑張る力を育みます。こどもたちが楽しい幸せな経験を数多く積み重ね、自立した生活ができるように長い目でみて関わることが大切です。

平成17年には発達障害者支援法が施行され、徐々に社会的な理解を広げるための法整備が進められてきており、教育・福祉分野でも様々な支援が広がってきています。

このようなケースは当クリニックにご相談ください

  • 発語がないなど、年齢に見合った言葉の発達が遅れている
  • 目線が合わない
  • 指さしをしない
  • オウム返し
  • 用事があるとき大人の手を引いて連れて行く
  • 一人遊びが多い
  • コミュニケーションが苦手
  • 会話にならない
  • トラブルが多い
  • 集団行動がうまくとれない
  • 大人の言うことを聞かない
  • こだわりが強い(決まった服しか着ない、決まった玩具でしか遊ばない)
  • スケジュールが変わると上手く活動できない
  • 光や音に敏感で、これらを嫌がる
  • 感覚の反応が鈍く、刺激や痛みに鈍感
  • 食べ物の好き嫌いが多い
  • 思い通りにならないとかんしゃくが多い
  • 物事に集中できない、気が散りやすい
  • 落ち着きがない
  • 忘れ物やうっかりミスが多い
  • 片付けや整理整頓が苦手
  • じっと座っていることが苦手、座っていても体がもぞもぞ動く
  • 順番が守れない
  • おしゃべりが止められない
  • 我慢することが出来ない
  • すぐにカッとなる
  • 些細なことで手が出てしまう
  • 学年相応の学習が苦手
  • 不器用で運動の調整や力加減が極端に苦手 など

発達障害の原因について

疾患ごとに、原因について研究が進められていますが、まだはっきりとは解明されていません。遺伝的要因、胎児期の保健状態、出生時の環境、感染症、環境要因などが複雑に絡み合って出現すると考えられています。

発達障害の主なタイプ

発達障害の重複

患者さんに、発達障害の診断名が複数当てはまることは、少なくありません。医師は、その子にわざわざたくさんの病名をつけて、障害が重くて、改善がむずかしいと言っているのではありません。
対人関係が苦手であることやこだわりは自閉スペクトラム症の特性と見なされますが、一方でその子の行動面にスポットを当ててみると、多動で衝動的にふるまい、注意力の不足がみられることがあります。それに対してはADHDと診断し、環境調整の上、必要時薬物療法で、症状を軽減することができます。
正しい診断の上で、特性を理解し、適切な治療や教育支援を受け、福祉サービスを利用することは、こども一人一人の発達を促し、困ることを減らしていくために大切です。
保護者は、診断をいくつもいわれると、なおさらそれを受け止めるまでに時間がかかるかもしれませんが、焦る必要はありません。わからない点は、医師や専門職に、なぜその評価や診断になるのか、どう対応することが適切かなど遠慮なく聞いてください。

参考資料:厚生労働省「発達障害の理解のために」・DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き

発達障害の主な治療と目標

現在のところ、発達障害の原因は明らかでなく、根本的に治すことはできません。生まれながらの特性なので、その子の認知様式、感じ方や行動パターンは基本的にはずっと続きます。それでも、こどもの成長・発達や人格形成は、発達障害の特性だけで決まるわけではありません。生まれながらの性格や様々な能力、家族の生活習慣、育てられ方、保育・教育環境が合わさって、長い目で見たその子の発達や自立性に結びついていきます。それぞれの子どもに備わる人間的に良いところを伸ばしたりできることを増やし、苦手なところを小さくして、安心で楽しい暮らしを作る自立性を養うことが発達支援の目標です。
主な治療としては、自閉スペクトラム症では、その子の特徴的な認知(理解や感じ方)の仕方を把握したうえで対人スキルを教え、こだわりや感覚過敏に対しては個別に配慮してあげる必要があります。
ADHDでは、集中しやすいように環境調整の上、必要時薬物療法を行います。集団生活になじまずに、いつも注意され、失敗がかさなると、本人が自信をなくし、やる気を失って、周囲に対し攻撃的になってしまうこともあります。そうなる前に、できるだけ早いうちからの特性の十分な理解と支援が必要です。また、さらに限局性学習症を合併していれば、個別的学習方法を検討し、協調運動障害があれば、その指導・訓練などをはじめます。そのほかの様々な合併症を見逃さずに、対応することが重要です。
子どもの発達課題と困りごとについて、多面的に評価し、それぞれの発達特性に応じて、適時適切な診断と支援の方法をオーダーメイドで進めることが重要となります。その上で、家庭生活での関わりを工夫し、療育や教育でその子の持っている様々な能力をのばし、それぞれのやり方で社会に適応していけるようなスキルを、年齢に応じて丁寧に教えていくことが大切です。
発達障害の支援も大切ですが、こどもらしく、自分らしさを大切に、のびのびとした気持ちを持たせ、安心で健康的な規則正しい生活を整えることも家族の役割です。
人と違っていいのだと親が子どもの味方になって、長い目で見守って行きましょう。