自閉スペクトラム症とは

子どものイメージ写真

年齢相応の対人コミュニケーションをとるのが苦手で、強いこだわり行動や感覚過敏が特徴です。
次のような段階で、周囲の人が気づきます。乳幼児健診では、多くの場合「言葉の遅れ」からスクリーニングされてきます。次には、保育園や幼稚園で、「集団行動ができない」時、学校生活では、「友達とコミュニケーションがとれない」などです。症状は生まれつきの特性ですが、発達の個人差との線引きがはっきりしているわけではなく、家庭や社会生活に大きな支障が生じ、目立ってくると相談・受診につながります。
知的発達は、遅れ~正常~優れているといろいろです。発達・知能検査では、発達レベルがわかるとともに、個人内のアンバランスの有無、検査中の態度や行動が評価されて、ASDの診断の参考になります。
ASDは男女ともに起こるのですが、特に男性で多く出現します。家族内で、似たような特性が見られる場合もありますが、ないこともあります。
原因を探る研究が続けられていますが、まだ、不明です。しかし、親の育て方が直接の原因ではありません。

自閉スペクトラム症には次のような症状があります

  • 視線が合いにくい
  • 言葉が遅い
  • 表情が乏しい
  • 名前を呼んでも振り向かない
  • ばいばいなど身振りの挨拶もしない
  • 指さしをしない
  • ごにょごにょ独り言をいう
  • オウム返し
  • 一人遊びが多い、ごっこあそびを好まない
  • 行動がマイペース
  • 相手の気持ちや立場がわからない
  • こだわり行動がある
  • いつもの習慣が変更になることが受け入れられない
  • 新しいことに慣れにくい
  • 興味の範囲が非常に狭い
  • 音、味、臭いなどの身体感覚が非常に鋭い、または鈍い
  • ちょっとしたことでも周囲を攻撃し、かんしゃくを起こす など

治療について

当院を受診するのは幼児から中学生の子どもたちですが、自閉スペクトラム症が疑われる「気になる症状」は様々です。幼児期で多い主訴は、発達の遅れや偏りという本人自身の問題ですが、学校に行くようになると、「学校でのトラブル」「不登校」などの社会的不適応が初診のきっかけになるようなってくることもあります。
受診や相談のタイミングが何歳であっても、気づいたその時が治療や支援のスタートです。
はっきり診断されれば、もちろんですが、疑いや経過観察であっても、本人の目線になって、どうしてできることと苦手なことに凸凹があるのか、なぜ、言われたことをやろうとしないのか、こだわりと過敏さはどこからくるのか、まずは、発達の特性として周囲の大人(家族や先生等)が彼らの行動の意味を理解・共感してあげることが大事です。
その上で、幼児期であれば、個別や小集団による療育が有効です。その子の発達段階に合わせた対人コミュニケーションの発達を促し、身の回りのことができるように、集団生活になじんで楽しめるように経験を重ねます。その子の安心の居場所があり、子どもなりに自信がもてて、チャレンジする心が育まれるとよいです。
学校では、学習の進み具合によって特別支援教育を受け、社会生活スキル支援の時間で学ぶこともあります。
普段の集団生活の場における環境調整も大切です。日々の生活でも、本人の困りごとや周りの人とのトラブルがあれば、ただ注意、叱責や反省させるという対応でなく、その都度、具体的にどうしたらよいのか、繰り返し教える対応、もしくは、できるようになるまで待つという姿勢が必要になります。一方で得意なことについては、頑張るように励まし、自尊心を高めるエネルギーにします。
薬物療法は、現在のところ根本的に直す治療になるわけではありません。しかしながら、ASDのある子は、幼児期には、不眠や強いかんしゃくがあると、家族が疲れ果ててしまうほどのこともあります。刺激に反応しやすく、学校等で過度に興奮したり、自分や他人に攻撃的になってしまうこともあります。薬により、行動が落ち着き、本人や家族の生活が安定し、指導がより効果的に進む場合があります。症状の軽重は、薬だけで調整できるものではないので、本人の負担になっていることがないか環境を見直しながら、薬は調整していくことになります。
ASDと診断されても、それは、本人の一側面です。一人一人の子どもの人となりを大切に、発達の特性に合わせて生活・教育環境を工夫して困ることを減らし、生活力をつけさせましょう。また、何より大切なのは、心身の健康です。とても工夫がいるでしょうが、規則正しく、寝ること、食べることと清潔を習慣づけましょう。いいときも悪いときも、一日一日の成長を長い目で見守って、安定と自立の大人の生活につなげましょう。